錬金術の作業は一般に鉛を黄金に変成するすることのように考えられているが、実際にはこの「賢者の石」と呼ばれる万物変成のエキス(エレクサ)をつくることが重要な作業であった。
これは錬金術の秘伝的作業工程の中で、水銀・硫黄・塩の3元素が完全に調和のとれた結合を成し遂げたときに完成される。
各時代の達人たちによってつくりだされ、ほんの少量で20トンもの鉛を黄金に変える力をもっていたという。
しかし、本当の達人は黄金変成よりも魂の浄化に力を注いだので、「賢者の石」が一般の人々の目にふれることはまったくないといってよかった。
賢者の石はあらゆる金属を金に変えるばかりでなく、病気に対する万能薬としても有効だったらしい。
アイルランドのバトラーという豪族はこの石を持っていて、ミルクやオリーブ油の中にそれをひたしてから病人に飲ませ、病気をたちどころに治したという。